研究概要 |
加齢がヒトの交感神経活動に及ぼす影響を明確にすることを目的として,異なる年齢層の被験者を対象として,筋交感神経活動(MSNA),および皮膚交感神経活動(SSNA)をニューログラム法により観察し,加齢が基礎活動と反応性に及ぼす影響を観察した.1.41人の健康男性を対象として加齢がMSNAの基礎活動と反応性に及ぼす影響について解析した.基礎活動は加齢と共に上昇し,年齢との間には正の相関が,起立負荷に対する反応性は加齢とともに減弱し年齢との間には負の相関が成立した.2.若年群では40名の男子,25名の女子(21〜25歳),高齢者群では8名の男性と7名の女性(65〜78歳)を対象として加齢がMSNAの基礎活動と体位変換時の反応性の性差に及ぼす影響について解析した.若年者におけるMSNAの性差は加齢に伴い消失した.3.16人の若年群と10人の高齢者群を対象として,加齢が体位変換時のMSNAの血圧制御に及ぼす影響について解析した.高齢者では体位傾斜角度が立位に近づくと急激に血圧が上昇するが,若年者においてはそのような現象はみられず,両者は線型関数を形成した.4.19〜67歳の16名を対象として,中立温での頚下水浸によるMSNAの抑制反応に及ぼす影響について解析したところ,MSNAの抑制率は加齢とともに低下した.5.高齢者における睡眠時無呼吸時のMSNAについて3名の高齢者を対象として解析したところ,無呼吸期間においてMSNAの著明な増加が観察された.6.高齢者におけるSSNAと効果器反応について70歳の高齢者で検討したところ,発汗,皮膚血流量低下などの効果器反応が減弱していた.加齢により交感神経活動に対する効果器反応が低下し,交感神経の基礎活動が亢進する.若年者においては負荷が加わっても恒常性が保たれるが,高齢者においては効果器の反応が低下するため,恒常性に破綻を来しやすいと考えられる.
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