研究概要 |
脱水状態において暑熱負荷が加わると生体は体温調節を犠牲にし,体液の恒常性を優先させる。このときの体温調節機構の変貌は体温の設定温度(セットポイント)の変化(上昇)を介して発現する可能性がある。本研究では,脱水により体温の設定温度が上昇するか否かを,行動性体温調節反応を指標に検討した。被験者は水温を一定にした浴槽中で肩まで湯に浸かり,浴槽外においた15〜45℃の範囲で水温調節が可能な恒温槽に片方の手を浸漬した。恒温槽の水温を快適と感じるレベルになるよう被験者自身に調節させた。浴槽の水温を32℃から40℃まで1〜4℃ずつ約20分の間隔で段階的に上昇させながら,浴槽水温(Tbath),恒温槽水温(Tglove),中核温(Tcore:Tty,Tes)を連続記録した。30分間の安静の後再度入浴し,controlled hyperthermiaの手法によりTesが38.0℃を維持するよう水温を38〜41℃の範囲で調節した。2%の体重減少を目標に45〜75分間入浴させた。約1時間の安静後再び入浴し脱水前と同様に手の快適温の測定を実施した。脱水操作前後ともTgloveは,Tcore,Tbathの上昇に対応して低下した。おなじTbathのレベルについてTgloveのTcoreに対する関係は直線的であった。しかし,Tcore-Tgloveの関係の回帰直線は脱水操作にともなって一定の変化を示さず,上方または右に移動する場合,有意な変化を示さない場合,下方または左に移動する場合があり,おなじ被験者でもTbathのレベルにより異なることがあった。また,回帰直線の移動の方向や移動幅と脱水の程度とのあいだに有意な関係は認められなかった。この結果は,選択温は脱水により必ずしも低下しないことを示しており,設定温度の上昇は証明できなかった。選択温は体温の日内変動にともなって変化する可能性も考えられるので今後はこれを考慮に入れた補正について検討する予定である。
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