研究概要 |
実験糖尿病ラットの摘出心臓を用い、ノルエピネフリン(NE)付加低流量潅流時の左心室収縮弛緩機能不全と局所心筋エネルギー代謝異常の関係を調べ、各種薬物の効果を検討し、非糖尿病心臓との相違を明らかにした。1.低潅流下のNEは、β受容体を介する心筋Ca^<2+>含有量増加を伴い低潅流障害を悪化させた。心筋エネルギー代謝異常は左心室内膜下層心筋において著しく、左心室拡張期ステフネス(Stiffness)の増加と共に、糖尿病心臓において顕著であった。2.両心臓において、このステフネスの増加は、内層心筋のATP減少および乳酸増加とよく相関していた。しかし、糖尿病心臓の方が内層心筋のATP減少の影響を受けやく、ステフネスの増加しやすさを、心筋細胞内総ATPの減少量で、単純に非糖尿病心臓と比較できないことを示した。3.糖尿病心臓のグリコーゲン含有量は、糖尿病期間に依存して増加した。この高濃度のグリコーゲンはステフネス増加の発現を遅らせるが、長時間の低潅流による障害は糖尿病期間に依存して悪化した。4.NE付加低潅流下のex vivoインシュリンは、内層心筋の水分含有量増加と共にエネルギー代謝異常を一部改善し、ステフネスの増加を抑制した。この有益な効果は、非糖尿病心臓より糖尿病心臓で顕著であるが、高血糖下では、乳酸レベルの上昇と共に効果は減弱し、産生乳酸濃度に依存することが示唆された。5.Ex vivoピルビン酸は、糖尿病心臓のNE付加低潅流時のステフネス増加の発現を遅らせ、有益な効果をもたらした。ピルビン酸脱水素酵素活性化剤ジクロロ酢酸は、単独でもピルビン酸との併用でも効果を示さなかった。6.糖尿病治療薬グリブライドは,K^+チャネル阻害によりNE付加低潅流時のステフネス増加の発現を促進させた。7.他の生理活性物質の作用や局所心筋血流分布の変動についても検討中である。なお、糖尿病6週間の摘出大動脈の電位依存性収縮は減弱していたが、アドレナリン受容体を介する反応は同程度であった。
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