研究概要 |
ショウジョウバエのhairy遺伝子は分節化や神経分化に重要な役割を果たしており、basic helix‐loop‐helix(B-HLH)構造を有する転写制御因子をコードしている。我々は、哺乳動物の発生・分化機構を明らかにする目的でhairyと高い相同性をもつラットの遺伝子を5種類(HES-1,-2,-3,-4,-5)同定したが、そのうち、HES-3は小脳プルキンエ細胞にのみ発現していた。本研究では転写因子と小脳疾患との関係を探るためにHES-3について構造および機能解析を行ったので以下に報告する。 HES-3は他のHES因子群と同様にhairyとよく似たHLH構造をもっていたが、N末側の約半分の塩基性領域を欠損しているためDNAには結合できなかった。しかし、ヘテロダイマーを形成する事によって他のHLH型転写促進因子のDNA結合を阻害し、遺伝子発現を負に調節した。また、HES-3の発現は生後10日頃から著明に誘導され、プルキンエ細胞の最終分化の時期に一致していた。以上から、HES-3はプルキンエ細胞の最終分化に関与する負の転写制御因子であることが示唆された。 HES-3の遺伝子は4個のエクソンからなり、その遺伝子構成はショウジョウバエのhairy遺伝子とよく似ていた。種々の小脳失調マウス(weaver,staggerer,reeler,Purkinje cell degeneration)についてHES-3遺伝子の構造を調べたが、いずれにも有意な変異はみつからなかった。また、染色体マッピングを行ったところマウスHES-3遺伝子は第4染色体のテロメア側に存在しており、既知の小脳失調マウスの染色体の位置とは一致しなかった。従って、現在のところ、HES-3の小脳疾患との関係はまだ明らかになっていない。今後、HES-3のin vivoにおける役割を明らかにするために、ジーン・ターゲッティング法を用いてHES-3のミュータント・マウスの作製を行う予定である。
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