研究概要 |
尿素サイクル酵素の1つであるargininosuccinate synthetase(ASS)の異常は高アンモニア血症を伴ったシトルリン血症を引き起こす.これまでに120症例を超えるシトルリン血症を診断し,ASS蛋白の酵素学的解析,酵素欠損の臓器特異性,代謝変倚の違いなどから3型に分類し,その特徴を報告してきた.また分子遺伝学的解析により,成人発症II型シトルリン血症の病因が新生児小児発症シトルリン血症とは明らかに異なることを見いだし,2病型に大別した.本研究期間に得られた結果をそれぞれの病型ごとにまとめて報告する. (1)全身性のASS異常を示す新生児小児発症シトルリン血症では,27症例のcDNAおよび遺伝子を解析し,ASS遺伝子上に21種類の変異を同定した.特に日本の症例において2つの主要な変異の存在を見いだし,その遺伝子診断法を確立した.IVS-6^<-2>変異(mRNA上でexon7欠失を起こすスプライシング異常)は,日本の15症例中11症例(73%);29allele中15allele(52%)に存在し,非常に高い頻度を示した.次に続く比較的頻度の高いR304W変異は,4症例;4allele(14%)に見いだされた.これら2つの変異は,すでに報告しているアメリカの12症例には認められず,現在のところ日本に特徴的である. (2)わが国で数多く見られる成人発症II型シトルリン血症の特徴は肝臓特異的ASS欠損を示すことである.このことは,5年前に肝臓移植手術を受けた1症例においてその治療効果をあげている事実からも確認できる.今回,II型の病因がASS遺伝子上にないことをhomozygosity testにより明らかにした.すでに100症例近くのII型を酵素学的に診断してきたが,今のところ確定診断法としては肝臓のASS活性測定しかない状態である.II型は難病の1つであり,発症してからの予後は決して良くない.診断と治療の面からも病因解明は急務であり,現在,真の原因遺伝子の同定に取り組んでいる.
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