研究概要 |
前立腺癌におけるras遺伝子の関与は、既に報告した通り、潜在癌においてK-ras codon12に26%認められた。欧米における報告ではras遺伝子の関与は低いとされ、前立腺癌の増殖の進展機構を明らかにするためには、日米症例の比較検討が必要であった。用いた症例は、最終的に日本人70例、米国人31例ですべて臨床癌であった。潜在癌は米国からの収集が不可能となったため今回の検索は行っていない。方法としてPCR-SSCP(Single strand conformation polymorphism)法によるスクリーニングをK,N,H-ras遺伝子のexon1及び2について行い、その後direct sequence法による変異の部位を検索した。その結果、日本人症例ではK-ras codon12に8例(11.4%,5例 GGT→GTT,3例 GGT→GAT)、N-ras codon12に1例(GGT→AGT)の変異が認められた。しかしながら米国人症例ではK-ras codon 12に1例(GGT→GAT)変異を認めたのみで、N-ras 及び H-ras にはexon 1,2ともに変異を検出できなかった。用いた症例の組織分化度や臨床病期(stage)とは明らかな相関を示すところは見い出せなかった。以上の事から、日本人9/10(12.9%),米国人1/31(3.2%)と同一方法による比較でも人種間におけるras遺伝子変異の差異があり、本腫瘍発生の分子機構が異なる可能性を示唆させており、結果的に両国間の腫瘍発生率の違いとなっているのかもしれない。なお、当初報告した潜在癌におけるras遺伝子変異の頻度と今回の結果は、検出方法(dot blot hybridization と PCR-SSCP)が異なるためと推定している。これらの結果は現在投稿準備中である。また同一日本人症例については、臨床癌では転移抑制に関係するといわれるnm23遺伝子のうち,nm23-H1蛋白の発現消失が転移に関与するという結果を得た(Jpn.J.Cancer Res.)。潜在癌においてはAgNORによって規定される細胞増殖能を強く表現する浸潤型が、潜在癌の顕性化に重要であるという結果も得られた(Patho1.Int.)。
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