研究概要 |
中膜平滑筋細胞の内膜への遊走は動脈硬化病変形成の基礎となる重要な現象である。In vivoに近い遊走実験モデルを作成し,細胞と細胞外マトリックスに焦点をあて平滑筋細胞の遊走を解析し,次の成果を得た。 1.コラーゲンゲル内の単球/マクロファージ様細胞(THP-1細胞)が遊走因子である血小板由来成長因子(PDGF)を産生し,ゲル上の平滑筋細胞がゲル内に遊走した。平滑筋細胞の遊走は抗PDGF抗体によって有意に抑制され,PDGFの平滑筋細胞に対する遊走作用が実証された。 2.ゲル上の平滑筋細胞は基底膜を有するがゲル内に遊走した平滑筋細胞は基底膜を欠いた。同時に,遊走中の平滑筋細胞は基底膜の主要構成成分であるIV型コラーゲンを分解するマトリックスメタロプロティナーゼ(MMP)-9を産生した。更に,I型,III型コラーゲンを分解するMMP-1も産生した。ゲル内のTHP-1細胞もMMP-1,MMP-9を産生した。これらのMMPsの阻害剤であるEDTAを培地に添加すると平滑筋細胞の遊走は有意に抑制され,MMPsが平滑筋細胞の遊走に重要な役割を果たすことが明らかになった。 3.遊走平滑筋細胞はビトロネクチンリセプターを発現したがフィブロネクチンリセプターは減弱した。ビトロネクチンリセプターのリガンドである接着ペプチドRGDVによって遊走は抑制されたがフィブロネクチンリセプターのリガンドであるRGDによって抑制されなかった。 以上のデータよりin vivoでは,内膜に侵入した単球/マクロファージは遊走因子であるPDGFを放出する一方で,マトリックス分解酵素を産生し運動の障害となるマトリックス構築体を破壊する。平滑筋細胞もマトリックス分解酵素を産生し,自身の基底膜を分解し束縛された構造から自らを解放する。そして,ビトロネクチンリセプターを介して運動の足場を認識し,遊走因子の方向へ運動するものと考えられる。
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