研究概要 |
核酸前駆体合成系の中でもピリミジンde novo合成経路はほとんどの生物がこれを有し、核酸合成には不可欠な経路である。この経路は、また、プリン合成経路をsalvage経路に頼る原虫にとっても非常に重要であると考えられる。トリパノソーマ科原虫のピリミジンde novo合成経路は、他の生物の場合と同様、VMPまでの6酵素の連続反応から成る。本原虫の場合の特徴の1つとして、第5、第6酵素、それぞれOrotate phosphoribosyltransferase(OPRT)とOrotidine-5′-phosphate decarboxylase(OMP-DC)は、トリパノソーマ科原虫に特異な細胞小器官であるglycosome膜に独立に存在する点が考えられているが、活性の局在などその詳細はまだ明らかではない。glycosomeは一重膜の袋状構造を保ち、内部に解糖系酵素やβ酸化系酵素などが特異的に局在することから化学療法の標的としても注目されている。そこで本研究では、両酵素の特性を明らかにし、glycosome膜との結合性を明確に示す目的で、Trypanosoma cruzi培養虫体を遠心分画し、得られた画分の酵素活性を分光学的に測定し、さらにこれらの電顕観察を行なった。生化学的解析に要求されるT.cruzi培養虫体の大量培養は、ファーメンターまたは2lの三角コルベンにて実施し、効率よく大量の虫体を回収することができた。この虫体より、すでに確立したミトコンドリア画分調製法を応用した細胞分画法に従って、3,800×g沈渣、26,000×g沈渣、225,000×g沈渣および225,000×g上清の各画分を得た。26,000×g沈渣のOPRTおよびOMP-DCの比活性は、それぞれ6.8、16.5nmol/min/mg proteinと最も高く、至適pHは、8.1と6.5であり、Km値はそれぞれ59μM(Orotate)、5μM(OMP)であった。両酵素の活性の大部分は26.000×g沈渣に回収され、強い膜結合性を示すと考えられた。さらに、各画分の電顕観察により、26.000×g沈渣は比較的均一な一重膜袋状構造の顆粒を含むことが明らかとなり、両酵素の膜結合性とともに、glycosome膜との関連性が強く示唆された。
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