研究概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)はCD4陽性T細胞に感染しこれを不死化する。このT細胞上にはウイルスレセプターが存在すると考えられるが、本体は依然不明である。HTLV-Iはcell-freeでは感染が有効に成立せず、初年度は細胞間接触を介した膜融合の系を用いた。この系を用いて、既にCD4であることが知られているHIVレセプターと,HTLV-Iレセプターとの関係について解析を加え、明らかに両者が異なることを証明した。また,HIV感染によってCD4が細胞表面から消失してもCD4が発現されている時と同様にHTLV-I感染がおこることから,HTLV-IレセプターはCD4分子とは無関係であると考えられた。同時に、この系を利用してウイルスレセプターに対するモノクロナル抗体の作成を試みたが、これまでのところ膜融合を阻害する抗体は得られていない。細胞間接触を介する系では、細胞接着分子も少なからず影響を与える可能性があるので,これとは別にHTLV-Iウイルス粒子の細胞吸着を検出するシステムを開発した。これには、HTLV-I感染細胞の上清中のウイルス粒子を濃縮し、4℃あるいは37℃でMOLT-4細胞と混合し,一定時間に細胞表面に吸着するウイルス量をFACSで測定した。この結果、HTLV-Iはヒト由来のリンパ球・単球・上皮系細胞株,マウスのリンパ球系の細胞株に吸着し得るが,いくつかの例外的細胞株(グリオーマを含む)には吸着しなかった。これは、膜融合を用いた系で観察された所見と概ね一致していた。更に、HTLV-I抗体陽性ヒト血清でウイルスを前処理すると細胞への吸着が阻止されることから,吸着中和抗体がヒト抗体中に存在することが示唆された。現在、この系を用いてHTLV-Iレセプターに対する抗体の作成をひきつづき試みている。
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