研究概要 |
申請者らは、HTLV-I母子感染の防御に母体由来の移行抗体が有効に働くことを血清疫学的研究から明らかにしてきた(Int.J.Cancer49,673-677,1991)。本研究では母体由来の移行抗体にふくまれるHTLV-I感染防御抗体の性状を明らかにするため、HTLV-Iキャリア母から出生した児の血清抗体をもちいて、(1)HTLV-I感染阻止能、(2)抗エンベロープ抗体との相関で解析した。 児の移行抗体は生後3-9ケ月でほぼ消失した。その後の母乳哺育によって約30%の児にHTLV-Iの感染がおこることが再確認された(Asia-Occeania J.Obstet.Gynecol.18,371-377,1992)。この調査研究で追跡された10名の児についてHTLV-I感染阻止中和抗体と抗エンベロープ抗体の分析をおこなったところ以下の結果をえた。 HTLV-1感染児では中和抗体と抗エンベロープ抗体の間に解離がみられた。そのなかで、抗エンベロープ抗体の有無がHTLV-I感染の阻止により重要であることが示された。中和抗体は正常人リンパ球とHTLV-I感染細胞とのin vitro培養系で測定されたものであったが、この中和反応には(1)HTLV-Iの吸着、(2)HTLV-Iの細胞内増殖、(3)HTLV-Iの出芽、の3つの作用点が考えられる。(1)と(3)はエンベロープに関連したエピトープで抗エンベロープ抗体で認識される。(2)のエピトープはHTLV-I感染細胞に誘導される特異抗原が標的になり作用することが示唆されてた(論文投稿中)。以上の研究をふまえて、抗エンベロープ抗体の有無と感染防御能との相関を日本人以外の検体でも確認中である(AIDS Res.Human Retroviruses10,97-101,1994)。
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