本年度、我々はRAのpathogenesisにおけるT細胞の直接的関与を明らかにするために、RA患者の病変部である関節液中や滑膜組織に浸潤している単核球(T細胞優位)をSCID(severe combined immunodeficient)マウスの膝関節腔内に局所移入し、実際に関節炎が惹起されるかどうか検討した。16名のRA患者より得た関節液あるいは滑膜組織から分離した単核球を62匹のSCIDマウスの一側の後肢膝関節腔内に単回、複数回移入した。その結果、肉眼的な関節炎の出現は認められなかったが、病理組織学的に単回、複数回移入群それぞれで39匹中6匹、23匹中10匹のマウスにおいてRAの初期の特徴的な病理組織学的である滑膜細胞の増殖を伴う滑膜の絨毛状の増生を認めた。また、免疫組織染色の結果より、増殖した滑膜細胞はマウス由来であった。一方、変形性関節症患者の関節液中の細胞やPHAで刺激した健常人の末梢血単核球を移入したマウスではこのような変化は認められなかった。このことより、一部のRA患者の関節液あるいは滑膜組織に浸潤している単核球(おそらくT細胞)には、滑膜細胞の増殖を誘導する細胞が存在し、さらにRAの発症におけるinitiatorとしての役割が示唆される。今後、このSCIDマウスでの実験系を用いて、発症に関わる細胞(T細胞)あるいは進行因子(とくにサイトカイン)を特定することにより、それぞれをターゲットとした免疫特異的療法の開発が可能となるものと考えられる。 尚、今年度、我々はRAと同様に発症においてT細胞を介した自己免疫的機序の関与が強く示唆されている多発性硬化症(MS)において同様の方法でMS様の病像を再現することに成功し、報告した。
|