研究概要 |
1)85年に房総半島天津小湊町に勃発した山蛭の異常大繁殖は,92年まで年々著しくなったが,93年には初めて下向した。その要因として,93年の冷夏(春の低気温) シカの出現徘徊の疎遠が推定された。 2)比較のため,神奈川県丹沢山塊,秋田県南部,宮城県金華山島,奈良県春日山原始を踏査し,ヤマビルとシカ(秋田ではカモシカ)との関係およびヒトの被害状況の特徴を探索した。 3)ヤマビルのシカへの非吸血寄生とシカの趾間有穴腫瘤(ヤマビル内在)は,房総のシカ以外には認められなかった。 4)丹沢や秋田県南部のようにヤマビルが源棲地から近年急速に生息に拡大した地域では,天津小湊町と同様住民のバイオハザードとして被害が目立つが,金華山や春日山のように古来ヤマビルとシカとが共存する地域では,被害は藪や山林に入る特殊作者に限られていた。 5)イヌ,殊にヤマビル生息域を放浪するイヌは短時間に多数のヤマビルを伝搬する一方,抗ヤマビル抗体が形成されていて,これを吸血したヤマビルを免疫学的に間引く作用に関与すると考えられた。 6)生息域でヒトを襲う活動個体の吸血頻度(餌にありつく個体数の率)は予想通り少なく,7.28〔2.17(6/9)〜30.76(12/1)〕%で,盛夏と越冬開始前(晩秋)に比較的高率となった。摂餌として吸血されてヤマビルの〓嚢内にタール状で貯溜されている血液量は意外に少なく,大多数の個体では本来(未吸血時)の体重を下回った。 7)希少な天敵としてヤマビルを捕食するコカマキリ以外のカマキリ類はヤマビルを捕殺しないのみならず,ヤマビルに体液を吸飲された。8)頭上約20cmに横たえた樹枝にヤマビル10匹を放置すると索餌運動をするが,襲来のために落下する個体は見られなかった。 9)昆虫駆除用の重炭酸水素カリウムはヤマビルには無効であった。
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