研究概要 |
トリクロサンの活性汚泥に対する毒性を酸素吸収量で検討し,その最大無作用濃度は20mg/l,阻害率50%濃度は50mg/lであった。これらの値はヘキサクロロフェンの最大無作用濃度6mg/lを除いて,その他の消毒薬より1桁低い値であり,その毒性が強いことを明らかにした。 医療系排水中のトリクロサン濃度は数百ng/l〜数μg/lと比較的低い値であり,クロルヘキシジン濃度(数百μg/l),塩化ベンゼトニウムなどの第四級アンモニウム塩濃度(数mg/l)に比べて2〜4桁低い値でありトリクロサンの使用量を反映している結果である。 医療系排水処理施設における原水,生物処理水,最終処理水中のトリクロサン濃度は従来法で検出限界以下であったので,エキストレルートカラムに変えてセプパックC_<18>カートリッジを用いて試料水1lを通水し,有機溶媒で抽出・精製,誘導体化後,マスフラグメントグラフィーで定量する方法を確立した。本法は従来法に比較してその感度が50倍上昇した。しかしながら,上記試料水中でトリクロサンは検出限界以下であった。これらのことはトリクロサンが活性汚泥などによって吸着または分解された結果であると推察される。 トリクロサンの活性汚泥による代謝については,上位の水酸基のエステル化またはグルコン酸,硫酸,グルタチオンなどの抱合体化,ベンゼン環の過酸化物(パーオキサイド)化,それに続く水酸化,水酸基のエステル化など,および2,4,4'位の塩素の脱塩素化が予想される。活性汚泥処理の実験室内装置を用いてトリクロサンの主要代謝物を高速液体クロマトグラフィーを用いて単離後,質量分析法で構造解析した結果,2'位の水酸基のメチルエステ化および2,4,4'位の塩素のいずれか一つの脱塩素化が確認された。
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