研究概要 |
ホルマリン固定臓器から生前摂取された薬毒物が検出される否かについて動物実験を行なった. 1.揮発性薬毒物:トルエン,クロロホルム,ジエチルエーテル及びエタノールをウサギに致死量投与し,1〜2時間後脳,肺,肝,腎及び骨格筋を採取した.それらを各々5分割し,固定前及び1,2,5,14日間10%ホルマリン水で固定後,気化平衡-GC-MSで測定した.エタノール及びエーテルは固定1日後に夫々約5〜10%及び15〜40%まで急減するが,その後著変なく14日後でも検出された.クロロホルム及びトルエンは漸減し,2日後で各々60〜70%及び70〜80%残存し,14日後でも各々約20%及び40〜60%残存していた.このような成績は主としてこれら諸物質の水に対する溶解度をはじめとして,沸点等他の性質の差も考慮されなければならない. 2.向精神薬のクロルプロマジンやジアゼパム及びメタンフェタミン:各々をウサギに皮下注射後約2時間でCO中毒死させ臓器を採取した.それらを6分割し,固定前及び1,3,7,14,28日間同上ホルマリン水に固定し,常法通り抽出後GC-MS分析した.その結果,クロルプロマジン及びジアゼパムとも漸減し28日後各々脳で55及び90%,肺で25及び70%等全臓器で残存していた.メタンフェタミンは1日後1〜4%に減少していたが,28日後でも0.2〜2%残存していた.クロルプロマジンやジアゼパムは三級アミンであるのに対して,メタンフェタミンは二級アミンを有し,この二級アミンとホルムアルデヒドの化学作用も考えられ,更に研究を要する. 以上生前投与された薬毒物がホルマリン固定臓器から検出が可能であることが明らかになり,薬毒物の生前の摂取があったか否か区別できる可能性が示された.
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