研究概要 |
1.死体諸臓器からのDNA抽出:死後1日までの死体各臓器からDNAを抽出したところ,肺,次いで脾,腎,筋からmulti-locus MZ 1.3probeによる多型を検出するのに充分な高分子量DNAが抽出された。一方,血液,肝,膵から抽出した場合は,収量にばらつきが多く,多型検出の成績も一定していなかった。 2.保存中の組織DNAの安定性:肺,筋組織を-20℃に保存し,6カ月後まで1月毎にDNA抽出を行ったところ,肺からの抽出量(総DNA量)には明らかな減少傾向は認められなかったが,筋からの抽出量は保存期間とともに直線的に減少した。一方,各組織から抽出したDNAを4℃に保存した場合には減少傾向はみられなかった。 3.死後変化の著しい組織からのDNA多型検出:室温に放置した筋から経時的にDNAを抽出すると,総DNA量はいったん減少した後増加に転じ,9日めには放置前以上に抽出されたが,MZ1.3多型は検出できなくなった。このことから,腐敗の進行に伴ってヒト由来のDNAは分解し,微生物DNAに置き換わっていくものと考えられる。 4.微生物DNAによる多型像:放置した筋から細菌を培養し,通常の方法でDNAを抽出したところ,細菌からも大量の高分子量DNAが抽出された。しかし,MZ1.3多型検出を試みると,細菌DNAは制限酵素で消化されないかヒトよりも幅の広い不明瞭なバンドが検出されるのみで,ヒトの多型像と間違える危険性は認められなかった。 5.種々の抽出法を用いた場合のDNA多型像の比較:種々の方法によって臓器からDNAを抽出し,通常のフェノール法の成績と比較してみると,塩析法,液体窒素法,ドライアイス法によると多型検出に充分耐えるDNAが抽出され,フェノール法の場合と全く同一の多型像を示した。これらの方法は通常のフェノール法に比べ簡便かつ安全にDNAが抽出できることから,組織からのDNA抽出法として今後検討に値する方法であると考える。
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