研究概要 |
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は、近年肝機能検査の普及により本邦において、漸増している。申請者は、PBCに対してursodeoxycholic acid(UDCA)が有用であることを報告した。そこで、PBCの成因とUDCAの作用機序に関しての検討を開始した。UDCAの細胞性免疫の関与について、PBC患者におけるUDCA長期投与前後における、MHC class I,class IIの変化についての検討を行った。その結果、UDCA投与後において肝細胞におけるclass I抗原の表出は変化を認めず、胆管上皮においては表出が増加した。class II抗原の胆管上皮における表出には一定の変化を認めなかった。PBC患者におけるUDCAの作用機序として、免疫調節作用は少ないことが推測された。 次にPBCモデル実験として、ラットを用いPBCの類似病変が出現するGVHRを作成し、MHC class I抗原の変化について検討した。PVG(RT1c)ラットの脾細胞を(DA(RT1a)xPVG)F1ラットに注入した。1群:4x10^8、2群:4x10^7,3群:4x10^6,のPVG脾細胞注入量とした。その結果、注入後約14日目に1群においてのみGVHRの出現を認めた。1群における、可溶性MHC class I抗原量(ELISAによる)は2群、3群に比し有意に増加していた。病理組織像においては、1群において非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)が著明に出現していた。以上より、可溶性MHC class I抗原量を測定することで、GVHRの評価が可能となることが考えられた。次に,B6マウスの脾細胞をIL-6 transgenic mice(B6.6)xbm16のF1 hybrid miceに注入することで,MHC class IIの異なるGVHRを誘導した。その結果,CNSDCを認め,抗ミトコンドリア抗体の本体である抗PDH抗体の出現を認めた。さらにIL-6の増加を認めた。しかしGVHRの程度は,B6.6を用いなかった(bm12xB6)F1において,B6.6 transgenic F1 hybrid miceより強く出現した。つまり,IL-6がGVHRを制御している可能性が示唆された。 さらに,B6とそのMHC class II mutantであるB6,bm16マウス並びに,それらのF1マウスにGVHRを起こし,UDCA,TUDCAを投与し免疫系の変動を検討した。MHC class II,CD4/CD8,ICAM-1の表出には,これらの胆汁酸の投与にて変化を認めなかった。 以上より,比較的ヒトのPBC病態に近いモデルをマウスに作成することができた。GVHD反応に可溶性MHC class I抗原量の変化が現われることも判明した。さらにGVHRにおけるIL-6の関与が示唆された。またUDCAの効果発現機序として細胞性免疫への直接関与は少ないと考えられた。
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