研究概要 |
ラット分離肝細胞を用い,Phospholipase C(PLC)作動性肝細胞内情報伝達機構における慢性エタノール投与の影響を検討した.エタノール(EtOH)によるPLC活性化(細胞内Ca^<2+>([Ca^<2+>]c)上昇,イノシートール三リン酸(IP3)産生)は一過性であり,コントロールラット(コ群),慢性エタノール投与ラット(エ群)の両群間には差はみられなかったが,エ群において持続した.vasopressinによるIP3産生には両群間に差はみられなかったが,[Ca^<2+>]c上昇はコ群に比較してエ群において明らかに増強された.透過性肝細胞を用いた実験においてIP3添加による一過性のCa^<2+>放出はエ群において明らかに増強され,さらにその反応が持続したことより,慢性エタノール投与により小胞体のIP3受容体の感受性が亢進し,ATP依存性Ca^<2+>ポンプ活性が低下することが示唆された.また,vasopressinによるPLC活性化は両群ともにprotein kinase C賦活剤のphorbol ester(TPA)前処置により抑制され,cAMP依存性protein kinase A賦活剤のcAMP-analog(cpt-cAMP)前処置により抑制されたが,その程度はエ群において明らかに低下した.さらにEtOHによるvasopressinのPLC活性化に対する抑制作用もコ群に比較してエ群において低下し,受容体作動性PLC活性において,慢性エタノール投与によりETOH,protein kinaseに対する耐性が生じることが明らかとなった.このように,慢性エタノール投与により,PLC作動性肝細胞内情報伝達機構,クロストークに変化が生じ,種々の細胞機能の発現に影響を及ぼすものと考えられる.
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