研究概要 |
本研究では,高地肺水腫(HAPE)発症における呼吸調節異常の関与について睡眠,低酸素換気抑制,運動の影響を中心に検討が行われた.1)睡眠の影響について.急性高山病(AMS)の発症ならびに増悪因子としての周期性呼吸,desaturationの役割を明らかにする目的で,高地肺水腫既往者(HAPE-S)を含む健常男性を対象として人工気象室を用いて24時間の高地環境暴露実験(3,700m)を行い,到着12時間後より終夜ポリグラフを施行した.その結果全例において夜間desaturationを認め,その程度の強いほど高山病症状も強い傾向があり,さらに低地で測定した低酸素換気応答(HVR)や高炭酸ガス換気応答(HCVR)の程度との間に有意な相関が認められた.一方周期性呼吸の出現頻度(%PB)はdesaturationの程度やHVR,HCVRとの間には有意な相関関係を認めなかった.2)低酸素換気抑制(HVD)の関与について.3,200mの高地環境暴露実験を行い,酸素投与の効果を検討した結果,最も強い低酸素血症を呈したHAPE-Sの1例で対照群や他のHAPE-Sとは逆に,酸素投与によりかえって逆説的な換気量増加を示した.このことは低酸素によって抑制されていた換気が酸素投与により回復したことを意味し,HVDの存在を示唆している.さらに同HAPE-Sは前述の3,700mにおける睡眠実験においても,睡眠中の不規則呼吸が酸素投与により規則的な呼吸パターンを回復した.従ってHVDは安静覚醒時のみならず睡眠中にも起こりうる可能性が示唆された.3)運動の関与について.HAPE-Sを対象として低地において運動負荷を行った結果,対照群に比べ有意に強い肺血管反応(肺高血圧)を呈し,かつ低酸素血症を示した.しかし換気増大反応を反映する動脈血のpH,PCO2はHAPE-Sならびに対照群とも有意な変化を示さなかった.以上の結果から,HVRの低値に起因する肺胞低換気,低酸素換気抑制,夜間desaturationなどの呼吸調節異常が,HAPEやAMSの発症に関与する可能性が示唆された.しかし運動時換気応答,睡眠時周期性呼吸の関与については明確な関連性は見いだされず,今後さらに検討が必要と思われた.
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