研究概要 |
研究計画に従い本年度に次のような成果が得られた. 1.ラット脊髄器官培養:生後6‐7日のラットを断頭屠殺し,ティッシュチョッパーにより厚さ400μmの腰髄切片を得た.各切片をカバースリップ上に固定し,37℃で回転培養した.培養開始2週間後に主な組織構築を保ったまま1‐3層に薄層化した培養組織を得ることに成功した. 2.グルタミン酸アンタゴニストの作用:NMDAアンタゴニストのうち競合的アンタゴニストであるD‐AP5およびCPPあるいは非競合的アンタゴニストであるMK‐801を培養組織に72時間作用させたのち,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)染色を行い,AChE陽性脊髄前角ニューロン(VHAN)に対する毒性の定量をモルフォメトリーによりVHANの断面積別に行った.500μMのD‐AP5添加群と10μMのMK‐801添加群はコントロール群に比べVHANの有意な減少を認めたが,200μMのCPP添加群ではコントロール群との間に有意差は認められなかった.一方,non‐NMDAアンタゴニストについては200μMのCNQXを作用させたが,コントロール群,CNQX添加群とも培養組織が脱落傾向を示した. 3.作用機序の検討:D‐AP5やMK‐801などのNMDAアンタゴニストは,non‐NMDAアゴニストであるKainateやquisqualateと同様に100μm^2以上の大きさのVHANを障害し,0ー100μm^2のVHANを主に障害するNMDAの神経毒性とは異なっていた.NMDAアンタゴニストによる神経障害の作用機序としては,1)NMDAレセプターを介したグルタミン酸の神経細胞に対する必要不可欠な作用の阻害,2)NMDAレセプター阻害によるnon‐NMDAレセプターの二次的な賦活化などが考えられた.これらの鑑別には,NMDAアンタゴニストの神経毒性とnon‐NMDAアンタゴニスト単独添加ならびにNMDAアンタゴニストとnon‐NMDAアンタゴニストの複合添加の場合の神経毒性との比較が必要と考えられる.
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