研究概要 |
【目的】肺傷害には主として、血流を介する血管内皮の傷害と、気道を介する肺胞上皮の傷害とがある。成人呼吸窮迫症候群の実験モデルと考え得るアロキサン肺水腫で、経静脈的投与による肺傷害と経気道的投与による肺傷害とを作成し、透過性亢進型肺水腫の病態の解明および治療方法を研究する。 【方法】アロキサン肺水腫の機序・防御について研究するために、麻酔閉胸犬にアロキサン(75mg/kg)を静脈内投与して、経静脈的肺傷害を作成し、4群に分けて活性酸素消去剤の前処置による効果を検討した;対照無処置群、アロキサン群、カタラーゼ(hydrogen peroxide消去剤)+アロキサン群、DMSO(hydroxyl redical消去剤)+アロキサン群。一方、麻酔閉胸犬にアロキサンを経気道的に選択的に一側肺に投与して、経気道的肺傷害を作成し、4群に分けて検討した;生食水投与(対照群)、アロキサン各量(19mg,37.5mg,75mg/kg)の投与(アロキサン群)。1)熱と食塩水とを用いる二重指示薬希釈法(熱-電気伝導度法)と直接法とによって血管外肺水分量を測定した。2)血行動態や血中循環物質の経時的変化を測定した。3)傷害肺の電子顕微鏡写真の特長を検討した。 【結果】1)経静脈的投与群では血管外肺水分量は有意に増加したが、活性酸素消去剤の前処置群では増加しなかった。経気道的投与ではアロキサン投与側の血管外肺水分量は用量依存性に増加し、アロキサン群の最大量投与時の非投与側肺では、対照群の非投与側肺に比較して、血管外肺水分量は有意に増加した。経気道的投与では熱-電気伝導度法による血管外肺水分量(10.7±4.0ml/kg)は直接法による値(20.7±5.9g/g)よりも著しく少なかった。2)経動脈的アロキサン投与群では末梢血白血球数は減少し、TxB_2および6-keto-PGF_1αの血中濃度は増加した。3)電顕的特長は、経静脈的投与では血管内皮細胞の傷害、経気道的投与では肺胞上皮細胞の断裂と基底膜からの剥離、血管内皮細胞の断裂であった。 【結論】経静脈的アロキサン投与の肺傷害では活性酸素消去剤に防御効果がある。経気道的アロキサン投与による一側肺に限局した肺傷害では、対側肺にも傷害が及び、熱-電気伝導度法による血管外肺水分量は(おそらく血流分布障害のため)過少評価する。
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