研究概要 |
核に存在する転写因子であるビタミンD受容体(VDR)は、ヒトオステオカルシン遺伝子のビタミンD反応領域(VDRE)に結合して発現を調節する。VDRの障害であるビタミンD依存性くる病II型(VDDR II)の中で、VDR遺伝子の同一変異を有する患者においても症状の程度は多様である。さらに、くる病所見が治療により正常化したのちに、治療を中止しても骨病変は再発しない。このような臨床的知見を説明することは、ビタミンDおよびVDRの作用およびその機序を明らかにするために重要である。そこで、作用機序および受容体の構造がVDRに極めて類似しているレチノイン酸(RA)およびトリヨードサイロニン(T3)が活性型ビタミンD(1.25(OH)_2D_3)の作用を代償している可能性について検討した。すなわち、1,25(OH)_2D_3、RAおよびT3を加えて培養した皮膚線維芽細胞の核抽出蛋白とVDREを反応させて、複合体の形成能について検討した。正常細胞に0.1nM,1nM,10nM,1,25(OH)_2D_3、100nM RAおよび100nM T3を単独で作用させると、何も作用させない時に比して複合体の形成は、それぞれ322%,235%,148%,123%および306%に増加した。しかし、1,25(OH)_2D_3とRAあるいは1,25(OH)_2D_3とT3に組み合わせて作用させても、単独使用時と同様の結果であった。一方、VDRの障害している患者細胞の複合体形成能は、何も作用させていないときは正常の45%であったが、1nMおよび10nMの1,25(OH)_2D_3を作用させると、それぞれ87%および61%に増加した。またRAあるいはT3によっても増加したが、1,25(OH)_2D_3と共に作用させても明かな併用効果は見られなかった。このように、オステオカルシン遺伝子の転写調節には1,25(OH)_2D_3だけではなく、RAやT3も関与していることが示唆された。したがってVDDR II患者で認められた臨床症状の多様性や再発しない理由として、RAやT3が1,25(OH)_2D_3の作用を代償して作用することにより説明できるものと考えられた。
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