研究概要 |
神経線維腫(NF)症では約1/3にNF関連遺伝子の異常が認められるが,残りの2/3の症例については未だ発症に関与する遺伝子は未同定である.我々は患者血清中やNF中にNF由来線維芽細胞様細胞にたいして特異的に増殖活性を有する未知の物質が存在することを報告してきたが,得られる試料に限界があり研究の進捗に支障を来たしていた.ところで,線維芽細胞の培養は通常単層培養で行われる.しかし,線維芽細胞の増殖能や分化能は細胞周囲環境,とくに細胞外マトリックスの影響を受ける.そこで,活性が長期に持続するアスコルビン酸2リン酸添加培養系を導入することによりこの問題を突破した.この培養系で3次元構築をもつ細胞シートが得られ,正常線維芽細胞は生体の真皮と同様のコラーゲンとムコ多糖を産生・蓄積し,組成も真皮のそれに酷似する.NF由来線維芽細胞を三次元培養して得られたシートではヒアルロン酸が,先天性ムコ多糖異常症であるHunter症候群由来線維芽細胞ではデルマタン硫酸が大量に蓄積して表現型が保持されることを確認した.このように,本培養系では細胞が生体内と同様の表現型を保持・発現することが推定され,細胞の増殖および種々の結合組織の代謝を研究するのに優れた培養系であると思われる. この結果に基づき神経線維腫由来細胞をこの系で培養し,線維腫を模倣した.その結果,線維芽細胞腫より抽出した画分と同じ分画に神経線維腫由来線維芽細胞様細胞に対してのみ増殖活性を示す画分が認められた. 本年度は研究試料不足の問題を解決するために新しい細胞培養方法の開発とその応用の是非に集中した.これらの結果からAsc2‐P添加培養により得られる細胞シートは線維腫と同様の試料として扱っていけることが確認できた.今後,細胞の大量培養を行うことにより十分な分析材料がえれることが期待され,増殖因子の性状を明らかにできるものと思われる.
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