研究概要 |
放射線大腸炎は、骨盤内の悪性腫瘍に対し放射線治療を行った場合に生ずる副作用で、重篤な場合には大腸狭窄を生じ手術を必要とする症例もある。放射線によるという原因と放射線を照射した部位に大腸炎を生ずるという因果関係は明らかであるが、その間の病態については必ずしも明らかではない。近年の研究の進歩により、炎症には血管内皮接着分子が重要な役割を果たしていることが判明している。そこで、子宮頚癌で放射線照射を受けた10症例に対し大腸内視鏡を施行し、生検材料を得た。凍結切片を作製しABC法を用い免疫染色を施行した。用いた抗体は、Intercellular adhesion molecule-1(ICAM-1),Vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1),Endothelial adhesion molecule-1(ELAM-1),Very late activation antigen-4(VLA-4)に対するモノクローナル抗体である。コントロール抗体としてヒト絨毛性ゴナドトロピンに対する抗体を用いた。正常の大腸粘膜には、ICAM-1の軽度の発現が認められたが、他のものは陰性であった。放射線照射を受けた大腸粘膜では、内視鏡所見では10例中9例に発赤が認められ軽度の大腸炎を生じていた。VCAM-1,ELAM-1,VLA-4の発現は認められなかった。ICAM-1の発現量を見るため抗体濃度を変化させたところ10例中4例に大腸炎部位にICAM-1の発現が亢進していた。今回の検討法は比較的感度の低い方法であることを考慮に入れると放射線照射を受けた大腸粘膜では、他の血管内接着因子の発現はないが、ICAM-1の発現は亢進していると考えられた。VCAM-1,ELAM-1は炎症の際に発現する血管内皮接着分子と考えられており、ICAM-1は炎症および免疫反応の時に発現すると考えられ、放射線大腸炎の発現機序に免疫反応の関与が考えられる。
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