研究概要 |
未服薬分裂病患者を対象に、抗精神病薬投与による臨床的、生化学的、精神生理学的指標の変化を検討した。対象はDSM-IIIRの基準を満たす未服薬精神分裂病外来患者12名(男性4例:女性8例、年齢21〜63歳)である。治療開始前にBPRS(簡易精神症状評価尺度)と、血中モノアミン代謝産物(HVA,MHPG,5-HIAA)濃度の測定、シラブル弁別課題遂行中の事象関連電位(ERP)を記録した。その後、Chlorpromazine,Perphenazine,Bromperidol,Nemonaprideのいずれかを投与量を固定して6〜8週間単剤投与し、再びBPRS評価、血中モノアミン代謝産物濃度測定とERP記録を行った。なお、今年度は対象症例が少ないので、投与薬剤毎の検討は行わず、Chlorpromazine(CPZ)換算量を求めて検討した。抗精神病薬投与によりBPRS合計点が改善したが、特に思考障害と活動生に関連する項目の改善が有意であった。またERPでは、抗精神病薬投与によりP300振幅が有意に改善した。血中HVA濃度は群としては抗精神病薬投与前後で変化しなかったが、投与前のHVA濃度の高いものほど抗精神病薬投与によるHVA濃度の低下が顕著な傾向が認められた。さらに、抗精神病薬投与によりHVA濃度が低下するものではP300潜時が短縮する傾向が認められた。また、抗精神病薬投与によりHVA濃度が低下するものではP300振幅も減少していたが、この振幅減少は服薬量とも相関していた。血中MHPG濃度と5-HIAA濃度は投与前後でほとんど変動しなかった。以上の結果から、治療前の血中HVA濃度が高くかつ抗精神病薬投与による血中HVA濃度の低下が顕著なものほど、P300潜時に反映される認知処理速度の改善が大きい可能性が示された。また、P300振幅は抗精神病薬投与による状態の改善に伴って増大する傾向と、投与量が多いと減少する傾向の2側面を反映する可能性が示唆された。
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