研究概要 |
近年,アルツハイマー型痴呆(DAT)や脳血管性痴呆の患者脳内で特定の神経伝達物質と神経ペプチドが減少し,これらの活性物質が記憶・学習等の知的機能や情動・行動に深く関与していることが明らかにされてきた.また,我々はヒスタミン作動系の神経ペプチドに対する神経調節機能の研究から,成長ホルモン放出因子(GRF)の脳室内投与が脳内のヒスタミン含量を増加すると同時に自発運動量を増大し,ソマトスタチン(SS)の脳室内投与が脳内ヒスタミン含量を低下すると同時にラットの自発運動量を減少することを報告してきた.そこで我々はGRFの記憶・学習機能に及ぼす影響を我々の教室で独自に考案した小動物の行動観察装置の床面に電気ショック領域と非電気ショック領域を作成し,その課題下におけるラットの運動量と非ショック/ショック領域識別能(N/S比)を検討した.その結果,SS1μgの脳室内投与は学習試験遂行時の運動量を減少し,GRFの脳室内投与は1μgの用量から用量依存性にその運動量を増大した.また,N/S比は対照,GRF,SSはそれぞれ0.72,1.33,1.35で,GRFとSSの両者が学習機能を改善する可能性が示唆された.次にGRFの痴呆性疾患の診断や治療に役立つ可能性について調べる目的で,DAT患者にGRF-44(100μg)を静脈内投与し,血中成長ホルモン(GH)分泌に対する反応性および認知機能に及ぼす影響を検討した.その結果,早期発症DAT患者ではGRFの静脈内投与によるGHの放出反応が正常高齢者や晩期発症DAT患者より強く現れ,その最大ピークは投与後60分で認められた.また,GRF投与は対照患者およびDAT患者の脳波を徐波化および高振幅化し,DAT患者の一部に一時的な認知反応および摂食行動の改善作用を生じた.以上のことから,DAT患者にはGRFおよびSSによるGH分泌の調節障害が存在している可能性が示唆されると同時に,GRF投与がDAT患者の診断および治療にとって有用である可能性が考えられる.
|