研究概要 |
本研究では,脳腫瘍特に神経膠腫でrestriction fragment length polymorphism(RELP)分析で認められる第17染色体のヘテロ接合性の消失が両親由来のアレルのどちらかと関連性を持っているかを分析検討することを目的に,若年者に発生した神経膠腫から腫瘍および白血球genomic DNAを抽出し,RFLP分析によって比較検討をまず行った.両親からも血液採取が可能な若年者神経膠腫は比較的まれであり,3年間の研究期間で当施設で,腫瘍および患者・両親白血球からgenomic DNAを採取し得た症例は現在の所,15例にとどまっている.この15例中,両親白血球由来DNAに比較して,患者白血球にてヘテロ接合性が消失している症例は現在のところ見いだされていない.すなわち,両親の各2本のアレルが互いに独立したfragment長を持つ症例で単一のfragment長を持つホモ接合アレル対をもつ患児が生じたものは見いだされていない.この結果の説明としては,第17染色体上にあるp53遺伝子は,WT1遺伝子と異なり,腫瘍ではじめてヘテロ接合性の消失と変異がおこるという可能性を示唆するが,限られたDNA sampleでの酵素切断によるfragment長を見るRFLP分析ではinformative caseが当然限定されること,分析するDNA長が長ければ減数分裂時の組換えが生じることにより,第17染色体上のp53遺伝子の近傍の変化を見逃している可能性もあると考察された.そこで,この点を解決するために,より直接的にp53遺伝子の変異の有無を腫瘍,患者、両親の白血球のmRNAおよびgenomic DNAにて解析するため,酵母を用いたp53遺伝子検出法を,1994年度後半より導入し研究を継続した.この方法は酵母内でヒトp53 RT-PCR産物を発現vectorに導入,p53蛋白として発現させ、この転写活性をADE2 gene転写を指標としてassayする方法であり,患者のgenomic DNAの一方のアレルのmethylationによる不活化も含めて,発現するp53遺伝子の異常を検出できる.この方法により現在のところ4例の若年者(30才以下)神経膠腫にp53変異を検出し得たが,患者白血球DNAではp53変異は見いだされていない.従って,Li-Fraumeri症候群(遺伝性のp53変異)などの特殊な例を除き,脳腫瘍のp53変異は患者両親の遺伝子とは関連なく,腫瘍発生時に初めて,ヘテロ接合性の消失、変異として生じるものと推定された.なお,今後も症例を積み重ね,この研究結果を確認する予定である.
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