研究概要 |
クモ膜下出血(SAH)後に発生する脳血管攣縮の病態に、免疫学的反応が関与している、という実験的仮説の下に、犬のクモ膜下出血モデルの脳血管攣縮に対して免疫抑制剤であるcyclosporineを用いてその治療効果をみたところ、脳血管攣縮の程度を軽減できる結果が得られた。そこでこの実験をさらに進めるために、新しい免疫抑制剤であるFK-506を用いて脳血管攣縮に対する治療効果を調べた。また、補体の関与を調べる目的で、未治療群、治療群で血中の補体(C_3,CH_<50>)の変化を調べた。さらに、攣縮血管を摘出しisometric tension studyでFK-506の薬理学的特徴を明らかにするとともに、免疫組織染色で血管壁のガンマグロブリンの沈着の程度を検討することにした。雑種成犬をsham群(自家血の代わりに生理食塩水を注入)、SAH群、FK-506治療群 I(0.15mg/kg筋注)、II(0.3mg/kg筋注)に分け、血管撮影で脳底動脈の血管径を計測した。SAH群、治療群I,IIにおいてはsham群に比較し、有意に血管径の縮少がみられた。SAH群、治療群I,IIにおいては有意差はみられなかった。血中の補体値については、sham群、SAH群、治療群I、IIにおいて有意な差は認めなかった。Isometric tension studyでK^+とphorbol ester(protein kinase Cの刺激薬)の収縮に対するFK-506の薬理効果を見たが、全く血管拡張効果は見られなかった。免疫組織染色では、残念ながらこれといった見るべき結果が得られなかった。こうした結果から、同じ免疫抑制剤でもcyclosporineとFK-506では脳血管攣縮に対する治療効果は全く異なっていることが分かった。この相違点は両者の免疫抑制効果、特にinterleukine 2の産生抑制効果に差が見らるためそれに基ずくものと考えられる。今後こうした差異を明らかにすることによって、脳血管攣縮に関与している免疫学的反応がどういったものであるかさらに解明できるものと思われる。
|