研究概要 |
近年開発された経頭蓋超音波ドプラ(TCD)は非侵襲的かつ簡便に頭蓋内主幹動脈の血流動態を評価できる画期的な検査法であるが,定量性に欠ける難点があり血流速度やフローパターンの解釈は種々の病態に画一的に適用できるものではない。そこで本研究では,脳循環動態の変動要因として最も一般的な頭蓋内圧の影響を臨床例やモデル実験で観察し,TCDの定量性や信頼性を向上させるための検討を行った。臨床例では,1.TCDで計測した健常人の中大脳動脈,内頚動脈,総頚動脈の血流速度とPC-MRAで測定した定量値との間に正の直線相関が得られ,TCDの定性的信頼性を確認した。2.頭蓋内圧亢進の極限状態と考えられる脳死患者の頭蓋内主幹動脈ではsystolic flow,to-and-fro,no flowと3種類の特徴的なTCD脈波形を観察した。モデル実験では,このような脈波形を定量的に解析するために内圧可変式模擬頭蓋腔モデルを作製し,頭蓋内圧を上昇させたさいの脈波形,pulsatility index(P.I.)および流量の変化を観察し3者の関係を調べた。その結果,1.頭蓋内圧の増大に伴いドプラ脈波形は急峻化し,sharp wave,systolic flow,to-and-fro,spiky flowそしてno flowの順に変化した。2.systolic flow,to-and-fro,no flowの出現する時期はそれぞれ拡張期潅流圧,平均潅流圧そして収縮期潅流圧の陰転する時期にほぼ一致した。3.末梢抵抗を反映するP.I.は各脈波形段階で有意に増加した。4.単位時間当たりの流量は各脈波形の段階毎に有意に減少し,to-and-froの段階では無負荷の時と比べ約95%以上の減少を示した。 以上の結果から,頭蓋内圧が著しく亢進した状態ではTCDのto-and-fro,spiky flowやno flowの各脈波形は有効脳血流が得られない状態を反映する有用なパラメーターになるものと考えられた。
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