研究概要 |
肺気管支に存在する神経上皮複合体(Bronchopulmonary neuroepithelial body ,NEB)は、細胞内顆粒中にアミンやペプチドを豊富に持った細胞群である。これらは、ヒトや動物の気道上皮に広く分布し、形態学的には頚動脈小体などとの類似性が指摘されている。免疫組織化学的な手法によって、NEBの細胞内顆粒が、5-HTなどのアミンやcalcitonin-gene-related peptide(CGRP)などのペプチドを含んでいることが証明され、また、低酸素の吸入時等にそれらの脱顆粒が生じることが報告されている。これらより、われわれは、NEBが何らかのメカニズムで低酸素を感知し、興奮し、それによって細胞の脱顆粒を来すことが低酸素性肺血管収縮反応(Hypoxic pulumonary vasoconstriction,HPV)に重要な役割を担っていると考え、また、NEBに最も多く含まれる、5-HTがHPVのmediatorと考え、ラットの分離肺灌流モデルにおいて、その機序の解明を試みた。また、同モデルにおいて吸入麻酔薬がHPV反応にいかなる作用を及ぼすかを検索した。 分離肺灌流モデルにおいて低酸素吸入によって生じるHPV反応は、5-HTのantagonistであるketanserinの投与によって完全に抑制された。また、ketanserinの投与を中止し、ketanserin freeの灌流液とした後にも、HPV反応の回復は認められなかった。このことより、5-HTがHPVのmediatorであることが強く示唆された。 吸入麻酔薬,sevoflurane,isofluraneによってもHPV反応はdose dependentlyに抑制された。吸入濃度、4%sevoflurane,3%isofluraneによってHPVは全く生じなかった。しかしながら、吸入麻酔薬の作用は可逆的であり、投与中止60分後には、低酸素吸入時の肺血管収縮反応は、完全に回復した。吸入麻酔薬の実験結果からは、その作用点がNEBにあるのか、肺血管にあるのかは不明であり、今後の検索が必要と考える。
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