研究概要 |
胸部硬膜外麻酔中の房室伝導抑制の機序は、交感神経心臓枝の遮断に加えて、知覚遮断や局所麻酔薬の血中濃度上昇に起因する中枢神経の抑制や、刺激伝達系への直接作用等考えられ複雑である。また近年、一酸化窒素の合成酵素(NOS)が房室結節にも存在が確認されたが、その関与は不明である。硬膜外麻酔で生じた低血圧の治療に用いる昇圧剤の刺激伝達系に対する作用を知ることも重要である。ハロセンで麻酔した猫を脳固定装置に固定し、中脳網様体構造に刺入したタングステン電極から多ニューロン活動を導出した。T9/10間より直視下に硬膜外カテーテルを留置した。右頚静脈および左大腿静脈より4極カテーテル電極を挿入し、それぞれ心房心電図の記録と心房電気刺激、His束心電図の導出に用いた。次に左開胸を行い星状神経節から出る交感神経心臓枝活動を同時に測定した。300msecの基本ペーシング下にatrial scanning methodで房室結節内伝導時間(A-H),心房有効不応期(ERP-atrium),房室結節機能的不応期(FRP-AVN)を測定した。1%リドカイン2mg/kgの硬膜外投与で動脈圧、心拍数は有意に減少し、心臓交感神経活動は10分後より30分後までほぼノイズレベルまで抑制され、同時にA-H,EPR-atrium,FRP-AVNは著明に延長した。血中リドカイン濃度は10分後より30分後まで約2μg/mlで安定していた。動脈圧を対照値に戻すべく、ドブタミン5μg/kg/minを持続静注すると刺激伝導系の抑制は回復したが、フェニレフリン0.5-1μg/kg/minでは不変であり、胸部硬膜外麻酔による刺激伝導抑制は心臓交感神経遮断に基づくβ1レセプター刺激減少が主要因であることが示唆された。また、内因性NOの関与を調べるために、NO合成酵素阻害薬のN^G-nitro-L-arginineを全身投与し心臓交感神経活動と心刺激伝導系の変化を調べた。
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