研究概要 |
脳血管障害後遺症患者を対象として、排尿障害と下部尿路機能障害との関係をさらに検討した。膀胱機能異常は約70%の症例にみられ、膀胱機能が過活動性膀胱例では頻尿や切迫性尿失禁が多く、低活動性膀胱例に排尿困難が多かった。正常膀胱例にも頻尿や尿失禁がみられたが、検査時に無抑制膀胱収縮を誘発できなかったため正常膀胱に分類してしまった可能性がある。尿道機能は50%以上の症例で正常であった。過活動性膀胱でも正常尿道の場合には頻尿であっても尿失禁が少なく、過活動性膀胱で不全尿道の例では尿意切迫感が出現すると同時に尿失禁する例が多かった。痴呆と排尿症状との関係をみると、尿失禁の頻度は非痴呆患者が約40%であったのに対して痴呆患者は約85%と高く、痴呆と尿失禁との関係が示唆された。しかし、痴呆の程度を長谷川式簡易知能評価テストで評価し、下部尿路機能との関係を検討すると、正常膀胱例21±9点,過活動性膀胱20±8点,低活動性膀胱20±11点,正常尿道19±9点、過活動性膀胱20±10点,不全尿道21±8点であり、痴呆と下部尿路機能障害の型との間にははっきりとした相関関係は指適できなかった。また、MRIで脳内病変部位と下部尿路機能との関係を検討したが、老年期脳血管性痴呆患者ではアルツハイマー病で報告されているような海馬や扁桃体の特異的障害はみられなかった。脳血管性痴呆患者の排尿障害とくに尿失禁は、脳実質障害による下部尿路機能異常だけからはうまく説明できず、精神病理学的な痴呆の質的特性の関わりも大きいと考えられた。また、排尿に重要な脳幹部の電気刺激を除脳イヌや麻酔ラットで行うと、橋排尿中枢の刺激では膀胱容量は小さくなり、その腹外側部の刺激では膀胱容量が大きくなった。最近話題となっているNOと排尿反射との関係を除脳イヌで検討したところ、NOは排尿時の内尿道括約筋弛緩に関与するとともに膀胱の安定性にも作用していると考えられた。
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