研究概要 |
ヒト3番染色体短腕上の特異的欠失領域に遺伝性・非遺伝性腎細胞がんのがん化過程に関与する複数のがん抑制遺伝子の存在が推定されている。我々は正常ヒト3番染色体移入法により,その短腕上にヒト腎細胞がん細胞株の腫瘍形質を抑制する遺伝子(がん抑制遺伝子)が存在することを明らかにしてきた。さらに,ラット遺伝性腎細胞がん細胞株(ERC細胞)の腫瘍形質がヒト3番染色体の移入により抑制されることを新たに見いだした。そこで,ERC細胞の腫瘍形質抑制にかかわるヒト3番染色体領域を特定すること,ならびにヒト腎細胞がんのがん抑制遺伝子領域との関連性について解析し,腎細胞がん発生のメカニズムを知る上での基礎的データを得ることを目的とした。 1)revertantクローンの分離:正常ヒト3番染色体の移入により腫瘍形質の抑制を示すERC細胞クローンを20継代培養し,腫瘍形質が再び親細胞と同様になった(revertant)クローンを60個分離した。これらの細胞について染色体解析を行い,正常核型を示すヒト3番染色体を保持している6クローンについてヒト3番染色体特異的コスミドDNAによる解析を行った。 2)ヒト3番染色体上にマップ(3p25-14.2)された50個のコスミドにより解析で,6クローン中の1クローンにおいてのみ3p25-21.1領域に特異的な欠失を認めた。しかし,他の5クローンにおいては欠失および再構成などは認められなかった。 3)1クローンに認められた欠失領域は,ヒト腎細胞がんにおいて高頻度に欠失がみられる領域,ならびに腎細胞がんを高発するvon Hippel-Lindau病の遺伝性疾患の原因遺伝子領域を含んでおり,またヒト腎細胞がん細胞株の腫瘍形質抑制にかかわる遺伝子の存在領域とも相関が認められた。
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