研究概要 |
細胞表面に糖蛋白質性、糖脂質性に存在する糖鎖は細胞間識別現象を通じて転移に関与する可能性がある。SSEA-1,シアリル2量体Le^XおよびLe^Xとtype2のH抗原を識別するロータスレクチン(LTA)は正常尿路上皮では雨傘細胞以外には発現していなかった。これら糖鎖エピトープの原発巣における発現の程度と膀胱癌の転移能はよく相関した。たとえば、リンパ節転移はLTAと強く反応する場合はみられたが、弱く反応するか反応しない場合はみられなかった。また、LTAとの反応性は膀胱癌のステージや予後とも相関した。糖蛋白質と膀胱癌の転移との関連性をさらに解明するためにモノクロナール抗体を作成した。ヌードマウスの皮下に移植したとき,肺に転移を起こす培養膀胱癌細胞BOYからLTA-アガロースアフィニテイークロマトグラフィーによってLTAリセプターを抽出し、それを免疫原とすることによりモノクロナール抗体を作成した。得られた抗体の中で、MM4が最も転移能と関連の強い発現を示した。検討の結果、LTA,SSEA-1,シアリル二量体Le^XおよびMM4抗原のなかで転移能と最もよく相関したのはMM4抗原であった。MM4 Abと膀胱癌との反応性をウエスタンブロテイングによって検討した。MM4 Abは免疫原として用いた培養膀胱癌細胞BOYからのLTAリセプターとは60KDaの糖蛋白質とのみ反応した。膀胱癌の原発巣や転移リンパ節では他のバンドがみられたが,60KDaの糖蛋白質が主要なバンドであった。こうして、60KDaの糖蛋白質がMM4抗原を担う分子であると結論した。一方,シアリル2量体Le^Xは60KDaと42KDaの糖蛋白質上に存在していた。そこで,転移関連抗原であるMM4抗原やシアリル2量体Le^Xを担う60KDaの糖蛋白質が膀胱癌の転移に重要な役割を果たしていると結論した。細胞接着に関わるセレクチンが腫瘍細胞上のこれらの糖鎖エピトープを誤って識別してしまい癌の転移を促進すると考えるのは極めて魅力的である。
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