研究概要 |
ヒト子宮内膜癌の癌化機構に関し,プロトオンコジーンであるbcl-2と細胞増殖能を示すといわれているPCNA(proliferating cell nuclear antigen) の発現を検索するとともに,細胞の死に関して近年注目を集めているアポトーシスの発現について研究した.正常胎盤組織,異常妊娠・分娩から得られた胎盤組織,胞状奇胎,子宮内膜癌組織などを凍結保存し,免疫組織学的検討,分子生物学的検討の試料とした. PCNAは妊娠の進行とともに発現が減少し,増殖能が低下していることが示唆された.bcl-2の発現は妊娠の進行とともに発現が強まり,妊娠末期では非常に強い発現が細胞質内に認められるようになった.胎盤では細胞の増殖が一定の時点で停止あるいは緩徐となり,胎盤機能を維持するという観点から,細胞それぞれの寿命を延長することで対応していると考えられる.しかし,子宮内膜癌では末分化な組織型になるにつれ,bcl-2の発現が細胞質内から核内へと移行するという正常組織では見られないパターンを見いだした.すなわち,bcl-2はp53蛋白の移動などを制御する機構を介して直接的・間接的に細胞の寿命をコントロールしていることを意味し,癌化機構に重要な役割を果たしていることが示された.アポトーシス(programmed cell death)は壊死とは全く異なる機構で細胞の死滅に関係している.胎盤や絨毛組織でアポトーシスの発現をみると,陣痛の発来(存在)と密接な関係があることが判明した.したがって,bcl-2はアポトーシスの発現をコントロールすることによって胎盤・絨毛細胞の寿命を調節していると考えられる.
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