近年、妊孕現象の多角的な免疫学的解析がなされているが、その結果に基き、原因不明習慣流産(妊娠はするが流産を反復する)患者に対する夫リンパ球免疫感作療法(以下免疫療法)が施行され、その有効性が報告されている。しかしながら、その作用機序についての解析は未だ十分ではない。筆者らは、感作療法に伴い夫婦間リンパ球混合培養を特異的に抑制するいわゆる遮断抗体活性が発現すること、患者末梢血中CD4/8比が有意に低下することなどを報告し、免疫療法の作用機序についての考察を行ってきた。今回の研究においては、免疫反応の認識相から反応相の動態を鋭敏に反映するとされる細胞傷害性Tリンパ球前駆細胞(CTL‐p)の変動を解析することにより、免疫療法の作用機序をさらに明確にすることを目的とした。 CTL‐pの測定は、免疫感作療法前後に患者より採取しプログラミングフリーザーで凍結保存したリンパ球を用いて行った。患者リンパ球浮遊液を順次濃度を変え、各濃度24wellづつ分注し、各wellにマイトマイシンC処理夫リンパ球を添加、培養しエフェクター細胞を作成した。標的細胞として芽球化夫リンパ球(^<51>Crクロム酸ナトリウム標識)を添加し、放射活性をガンマカウンターで測定した。自然解離平均値より3SD以上の放射活性を示すwellをキラー陽性活性と判定し、最初に設定した妻リンパ球浮遊液各濃度の24well中の陰性率からポアソン分布理論により、CTL‐p頻度を算出した。この結果、免疫療法前のCTL‐p頻度は平均1/93620.0(n=10)、免疫療法後の頻度は1/33860.0であり、CTL‐p頻度の有意の増加が観察された。このことより、習慣流産に対する夫リンパ球感作療法により患者免疫能に関して、初期の段階で積極的な免疫応答が発現することが推察された。
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