研究概要 |
正常上皮でのnm23の発現は、上皮基底層に強くみられ有棘層、表層になるにしたがい減弱していた。個々の頭頚部扁平上皮癌組織でのnm23発現程度は様々であり、正常上皮と同様に強い発現がみられる例からまったく発現のみられない例まであった。これらの発現の多様性は、頭頚部扁平上皮癌の組織分化度の指標になるとされるcytokeratinの発現と関係がみられた。すなわち、cytokeratin1,13,19の免疫染色を同一の連続切片を用いて行うと、nm23の発現はcytokeratin13の発現と比較的良く相関した。cytokeratin19は比較的低分化の扁平上皮癌に発現するのに対し、cytokeratin13は分化度が高くなるに従い発現が多くなると報告されている。この事より、nm23の発現は組織分化度に関係していると考えられた。また、nm23の発現とリンパ節転移(N分類)、腫瘍の大きさ(T分類)との関係を調べると、発現が減弱している例でリンパ節転移が多い傾向がみられたが、腫瘍の大きさとは関係がみられなかった。これらより、nm23の発現は腫瘍の組織分化度に関係し、臨床的にはその発現の低下がリンパ節転移と関係することが示された。 一方、同一の癌組織内でも、nm23の発現に違いがみられた。この事から、ひとつの癌組織の切片の中でもheterogeneityを示すnm23発現の解析は、細胞または細胞集団ごとにしなければならず、Northern HybridizationやWestern blotなどの生化学的手法は適当でないと考えられた。さらに、従来から行われている腫瘍全体に対する組織分化度の評価だけでは不十分で、患者の予後を推測するには個々の部分の腫瘍特性を考慮しなければならないと考えられた。 また、nm23の発現が組織分化度と関連があるという知見は、他の部位の癌の検討でも今だ報告がなく、非常に興味が持たれた。
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