研究概要 |
増殖環境を厳密に制御できるケモスタット培養装置を用いて,歯周病原性細菌,Actinobacillus actinomycetemcomitansの白血球毒素産生に影響を及ぼす環境因子を検討した。本研究により,以下の点が明らかになった。1)毒素産生は増殖速度に依存する:希釈速度を0.03h^<-1>から0.24h^<-1>にわたって設定したフルクトース制限の嫌気ケモスタット培養(pH7.0)では,希釈速度の上昇とともに,毒素の産生量は増加した。2)毒素産生は栄養基質濃度に依存する:主要な栄養基質としてフルクトースで細菌を培養する実験系では,菌体外に約1mM以上のフルクトースが存在すると,毒素産生は起こらなかった。3)pH:希釈速度0.1h^<-1>のフルクトース制限の嫌気ケモスタット培養では,増殖可能pHは6.0から7.7の範囲であり,有意な毒素産生はpH6.5-7.3の範囲で認められた。4)微好気性:フルクトース制限のケモスタット培養で炭酸ガスを添加しない条件では(希釈速度,0.1h^<-1>;pH7.0),ある特定の好気度の範囲で増殖収率と毒素産生が最大となった。この微好気性はこの細菌のecological niche,すなわち,微好気的環境である歯肉溝での存在を説明するように思われる。4)毒素非産生株:A.actinomycetemcomitansの毒素研究の初期から,毒素非産生株の存在が指摘されてきた。しかし,最近,毒素非産生株においても毒素遺伝子を持つことがわかり,毒素産生は複雑な制御を受けていることが推察されている。そこで,これまで用いてきた301-b株で毒素産生が起こる同じ条件で毒素非産生株(ATCC33384)や毒素産生不定株(ATCC29523)をケモスタット培養した。その結果,両株において有意な毒素産生が認められた。 以上の結果は,次のステップである遺伝子レベルでの毒素の発現制御を研究するための重要な基盤になると考えられる。
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