研究概要 |
シスタチン研究は「プロテアーゼとプロテアーゼインヒビター」の研究領域に包含され、生命科学の一大研究分野にまで発展しつつある。このような研究の流れの中で、長年にわたる我々のシスタチン研究は1.唾液(S-型)シスタチン(シスタチンS,SA,SN)発見,2.一次構造の決定,3.一次構造と阻害活性の関係,4.cDNAのクローニング,5.シスタチン遺伝子ファミリーの同定,6.シスタチン遺伝子群(CST1,CST2,CST3,CST4,CSTP1,CSTP2)の単離と構造解析,7.ヒト第20染色体へのマッピング,8.シスタチンスーパーファミリーの分子進化に関する新知見,9.シスタチン分子がBowman-Birk型インヒビターの阻害ドメインを包含する事実の発見と実証,10.リコンビナントシスタチンの生産,11.シスタチンの遺伝学的多型の検出,など多方面にわたる一連の業績を成し遂げている。 本科学研究費補助金の支援のもとで実施した研究では、主として6.,10.,11.の項目に述べた成果が得られた。我々によって当初その存在が予測されていたシスタチン遺伝子ファミリーの七つの遺伝子座位(CST1,CST2,CST3,CST4,CST5,CSTP1,CSTP2)はすべて明かとなった。大腸菌系を用いたリコンビナントシスタチンの発現・分泌に関する基礎的な知見はタンパク質工学によるシスタチンの機能改質やその用途開発に役立つと思われる。遺伝学的多型の検索によってCST2座位のシスタチンSA遺伝子の多型現象を同定したが、シスタチン遺伝子の多型現象に関する情報が法医学や遺伝子診断に活用されることを望む。今後、ヒト唾液型シスタチンの標的酵素をつきとめ、生命活動におけるシステインプロテアーゼインヒビターの役割についてさらなる考察を行いたい。以上の研究成果や研究展望に立脚して、我々はシスタチンを生命医学や人類の生活に役立てたいと願う。
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