研究概要 |
歯髄炎の可逆・非可逆は歯髄炎の病因論の中心的課題のひとつであり、その診断は歯髄疾患の合理的な治療方針を決定する上で極めて重要である。しかしながら今日においてもその正確な診断は困難とされている。炎症歯髄の病態に関して、歯髄中の炎症因子など直接的な情報が得られれば、歯髄炎のより正確な診断が可能となるばかりでなく、歯髄炎の非可逆性化に関与する炎症機構が解明できる可能性がある。我々はここに着目し、まず歯髄血液の採取法およびそれに含まれる炎症因子の定量法を確立した。即ち、歯髄血液を出血部よりnylon fiberで吸収し、これをtween20加PBSに溶出して含まれている炎症因子をELISA法で定量した。次に、炎症歯髄における炎症因子を正常歯髄のそれと比較検討することにより、歯髄炎の非可逆性化に関与する可能性のある因子を検索した。今回、自発痛や持続性の冷・温刺激通より抜髄を余儀なくされた歯髄を炎症歯髄、補綴的要求から便宜抜髄された歯髄を正常歯髄とした。また炎症因子としてIgG,IgM,IL‐1α,IL‐1β,IL‐6,TNF‐α,PGE_2を選択し検討した。その結果、IgG,IgM量は正常歯髄群ではそれぞれ1.82mg/ml,0.05mg/mlであったのに対し、炎症歯髄群ではそれぞれ3.81mg/ml,0.14mg/mlと高く、統計的に有意差が認められた(P<0.01)。PGE_2も同様に、炎症歯髄群(152.1ng/ml)は正常歯髄群(0.1ng/ml)に比べ有意に高い値を示した(P<0.01)。IL‐1α,IL‐1β,IL‐6,TNF‐αは炎症歯髄群の方が正常歯髄群より高い傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった。以上の結果より、IgG,IgM,PGE_2が歯髄の炎症と関連する可能性が示された。特にPGE_2は正常歯髄ではほとんど認められず、歯髄炎の診断指標としても期待される。しかしながら、歯髄炎の可逆・非可逆は覆髄処置後の臨床経過より判断されるため、これを直接覆髄処置に応用し、その術後成績との関連において解析することが今後の課題となろう。
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