研究概要 |
本研究の目的は日常の歯科臨床で用いられているコンポジットとグラスアイオノマーの破壊抵抗性を,破壊靭性値をパラメターとして評価し,当該修復材の適応を評価する一助となし,より耐久性に優れたコンポジットレジンの組成を検索することである。その結果以下のような成果が得られた。 1.我々の用いたリング試験片はK_<1C>の測定に理想的である疲労予亀裂の導入と制御が容易であり,正確な亀裂長さの測定が不要であり,再現性のよい計測法であることが示された。 2.市販コンポジットレジンの内,最も高いK_<IC>を示したのはRestolux SP-4(1.66MPam^<1/2>)で,また最小はHeliomolar-RO(0.60MPam^<1/2>)であり,マクロフィラー含有のコンポジットレジンはMFRに比較して高い破壊靭性を有することが示された.水中浸漬による劣化を検討したところ,3カ月で著名に低下し,サーマルストレスは水中浸漬より早期に劣化することが確認された.またSEM観察より劣化の部分はフィラーレジン界面であることが示された. 3.unfiled resinのK_<IC>は0.40MPam^<1/2>であり,試作コンポジットレジンは全てその2倍を示し,フィラーの複合効果が明確に示された.また,K_<IC>は平均粒径およびモード径が大きくなるに従い増加したが,約8μmを越えると著明な増加は認められなくなった。 4.同様な粒度分布を有する粉砕および球状フィラーを用い,充填率を70wt%に統一した試作コンポジットレジンのK_<IC>は,粉砕型が1.20MPam^<1/2>と球状の1.06MPam^<1/2>に比較して有意に高い価が得られた.また球状フィラーはpop in付近でAE信号の増大が認められたのに対し,粉砕フィラーはpop in以前に徐々にAE信号を発生した.以上の結果から粉砕フィラーは不定形であるため,亀裂伸展に対し抵抗するのみならず,フィラー製造過程で生じたマイクロクラックが微視的破壊を生じ,亀裂先端に集中する破壊エネルギーを消費する結果,高いK_<IC>を生じさせたことが示唆された. 5.光硬化グラスアイオノマーセメントのK_<IC>は0.85-0.89MPam^<1/2>と従来型のグラスアイオノマーセメントの0.35MPam^<1/2>を著名に上回る値が得られたと共に,市販MFRコンポジットレジンのHeliomolar(0.60),Prisma Microfine(0.62)をも凌駕した.以上の結果から光硬化グラスアイオノマーセメントは従来型に比較してストレスを大きく受ける部位の修復にも適応可能であることが示唆された. 以上の結果からコンポジットレジンの破壊や劣化に対する抵抗性を向上させるためには,サブミクロン〜ミクロンオーダーの不定形ハイブリッドタイプのフィラーを用い,その表面を水に対し耐久性のある処理法に変える必要性があることが明確に示された。
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