本研究では顎関節症における関節液検査の臨床的意義、さらには近年、その効果が注目されているヒアルロン酸ナトリウム製剤(生化学工業社製アルツ)の注入療法の薬理学的メカニズムについて検討した。研究方法:関節液の採取は顎関節症III型もしくはIV型患者の上関節腔パンピングまたはアルツ注入療法時に行った。採取した関節液についてヒアルロン酸の分子量分布、ラジカル消去能を生化学的に検索した。研究結果:1.HAの分子量分布(日本分光社製HPLC糖分析システムによる測定)〜採取関節液では6症例17検体、いずれでも分子量70〜150万に1つのピークが認められた他、分子量数万にピークを認めた。また、一部の症例では分子量300〜500万のピークを有するものがあった。アルツ注入療法後の関節液中HAの分子量分布の変化には一定の傾向が見られなかった。今後は症例の重症度による分子量分布の相違、アルツ注入後の変化について症例を重ねて検討する必要があると考えられた。 2.関節液のラジカル消去能(ESRスピントラッピング法による測定)〜HPX-XOD系では関節液添加によりスーパーオキシドアニオンラジカル(O^・_2^-)は16検体中8検体で抑制された。また、Fe(II)-H_20_2系では15検体中14検体でヒドロキシラジカル(・OH)の抑制がみられた。アルツ注入療法によるラジカル消去能の変化には一定の傾向が認められなかった。1%キシロカインの洗浄で得られた関節液では0^・_2^-、・OHとも高い抑制が見られた。これはキシロカインそのものにも双方のラジカル抑制能が認められ、HAとキシロカインの相加的作用によるものであると考えられた。今後はさらに症例を重ね、関節液中HAの存在が生体防御能のパラメーターとなるか、また、薬理学的効果から見たアルツ注入療法の適応の基準などを重点的に検討していく必要があると考えられた。
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