研究概要 |
系統解剖用日本人成人遺体15体から顎関節突起計30側を一時的に摘出し,各々につき27項目の計測点,6項目の形態学的特徴を検索し日本人成人の顎関節突起を形態学的に解析した。対象とした遺体は男性10体,女性5体,年令は48〜91才で平均75.9才,80才台が最多で6体であった。測定は顎関節突起をキャリパ等で直接計測し,測定値をパーソナルコンピューターに入力後,各項目ごとに平均値と標準偏差を求めた上で,t-検定によって男女差および左右差につき統計学的に検討した。 その結果,15体の顎関節突起の左右差を検索したところ,下顎枝後縁の切線と顎関節面のなす角(関節面の傾斜角)のみに左右で有意差がみられ,左側44.4°に対して右側は50.6°であった。しかし男女各々の左右差については男,女いずれも左右に有意の差はみられなかった。ついで左側における男女の差異を検討した結果,関節頭長軸(左右径)が男性22.20mmに対して女性は18.92mmであった他,関節面長軸(左右径)も男性21.05mm,女性17.60mmといずれも有意差をもって男性が大きい値を示した。また右側についても同様で,関節頭長軸(男性22.24mm,女性19.66mm)と関節面長軸(男性22.11mm,女性18.54mm)がいずれも有意差をもって男性が大きいという結果が得られた。なおその他に左側では2項目,右側では5項目に男女差がみられたものの左右の共通性はなかった。 以上より日本人成人15体の顎関節突起は,1.関節面の傾斜角が左右で異なり右側が大きいこと,2.関節頭長軸と関節面長軸が左右ともいずれも男性の方が女性よりも大きいことが明らかとなった。したがって人工顎関節頭の具備すべき要点としては,関節面の傾斜角を左右で変える必要があるとともに関節頭および関節面の長軸についても2種類のものが必要であり,少なくとも左右別,男女別の計4種類の人工顎関節頭が必要であることが示唆された。
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