研究概要 |
歯科麻酔科臨床で、現在広く用いられている精神鎮静法の有用性について,その基礎的な評価を脳内神経伝達物質動態から行った。実験動物としてSD系ラットを用い,マイクロダイアリシスによって,主としてセロトニン,さらにノルアドレナリンとドーパミンを含めたモノアミン神経伝達物質細胞外量(シナプス間隙量)について検討した。検索対照とする脳部位は,不安や恐怖などのnegative emotionに深く関与していると考えられ,limbic systemの構成部位である扁桃体外側基底核,大脳皮質内側前頭前野,側座核とした。投与薬剤として,精神鎮静法に汎用されている薬剤としてジアゼパム,また実験動物に負荷するストレスとして,身体的因子を伴うストレスであるTanakaら(1982)の金網拘束ストレス,身体的因子を伴わないストレスであるコミュニケーションボックスによる心理的ストレス(psychological stress)を選択した。 その結果,金網拘束ストレス負荷によって,扁桃体外側基底核ではセロトニンとノルアドレナリンの細胞外量が増加し(ドーパミンは基礎細胞外量が検出限界以下),大脳皮質内側前頭前野ではセロトニン,ノルアドレナリン,ドーパミンいずれもその細胞外量が増加し,側座核ではセロトニン,ドーパミン(ノルアドレナリンは基礎細胞外量が検出限界以下)いずれも細胞外量は変化しなかった。また,コミュニケーションボックスによる心理的ストレス負荷によって,扁桃体外側基底核と大脳皮質内側前頭前野のセロトニン細胞外量が増加するのを観察した。また,ジアゼパムの前投与により,これらのストレスによるモノアミン神経伝達物質細胞外量の増加は抑制された。以上から,不安や恐怖などnegative emotionに,特定の脳部位のモノアミン神経活動が関与し,精神鎮静法はこれらの脳部位モノアミン神経活動を抑制することにより,鎮静作用や抗不安作用を発現することが示唆された。
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