研究概要 |
口腔疾患の診断はX線写真検査や病理組織検査をはじめとする諸検査に加えて臨床症状,病歴など多くの情報を総合的に判断した上ではじめて精度の高いものとなる.多くの情報を整理し,有効なものだけを活用できるようになるには多年にわたる臨床経験を必要とする.しかしながら,すでに蓄積された情報を利用しやすい形に整理し,現在直面する症例に関して必要な情報を簡単に取り出せる形で保存し,すぐに確認できるようにすれば個人の経験の差をある程度無くすだけでなく,正解の得られる確率をより高めることも可能である. そこで,コンピュータに画像の基本データを入力すると同時に診断支援に利用する場合の疾患特定に至るまでの確率の算出を試みた.その基礎データとして,大阪歯科大学附属病院歯科放射線科を1987年から1992年の6年間に受診した10,126名のうち再診患者を除いた9,376名の情報項目を整理して利用した. 疾患分類は炎症性疾患,歯原性嚢胞,非歯原性嚢胞,歯原性腫瘍,非歯原性腫瘍,悪性腫瘍,外傷,顎関節疾患,分類不明の疾患およびその他の10項目(62病変)に細分した.部位については上顎洞,上顎骨,下顎骨,顎関節,唾液腺,軟組織およびその他の7箇所(32部位)である.X線写真像も正常像,X線透過像,X線不透過像,X線透過像と不透過像が混在したもの,形態異常,顎関節,唾液腺とその他の7項目(18画像)に分類した.X線写真像の分布は主たる病変がX線透過性を示したものが64%で最も多く,内容は炎症性疾患が36%であった.次いでX線的に顎骨に変化が認められなかったものが14%を占めた. これらの情報より顎骨中心性の疾患の疾患症候行列を作成し,ベイズ定理を用いて疾患の発現頻度を算出した.この事後確率は顎骨病変のX線画像診断における読影者が意思決定を行うための支援システムになりうると考える.
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