研究概要 |
歯周疾患の低年齢下に伴い,歯周疾患における病原因子の解明が要望されている。しかし現状では,病原因子の同定に大きな根拠を与える動物実験系も確立されていない。本研究の目的は,通常の施設で飼育できる実験動物に歯周病原性細菌を定着させ,歯槽骨の吸収を誘発する実験系を確立することである。そこで本研究では,SPFのSDラットに,一次感染としてActinomyces viscosusを感染させた。この菌の定着を確認した後,前思春期性歯周炎患者の歯肉溝より分離したPrevotella intermediaあるいはFusobacterium nucleatumを単感染あるいは重感染して二次感染を行った。このラットに小麦粉を主成分とする粉末飼料を与え,約6カ月間飼育した。この結果,A.viscosusはすべての動物から,実験期間中常に回収された。またP.intermediaおよびF.nucleatumは,感染直後はその回収頻度および回収菌数はともに低いものであったが,時間の経過とともに増加し,実験終了時にはほとんどすべての動物から回収されるようになった。A.viscosus,P.intermediaおよびF.nucleatumの回収に,重感染による影響はほとんど認められなかった。ラットを屠殺後,実体顕微鏡下で歯肉の炎症を調べたところ,P.intermedia感染群ラットおよびP.intermediaとF.nucleatum重感染群ラットの数匹に,明瞭を歯肉腫張を認めた。しかし口腔軟組織を除去し,歯槽骨の吸収を調べたところ,P.intermediaあるいはF.nucleatum感染群ラットで有意の歯槽骨吸収を認めるという所見はえられなかった。以上の実験結果は,通常飼育のSPFラットに歯槽骨吸収を伴う激しい歯周疾患を誘発させるためには,感染に用いる細菌の種あるいは新鮮度,さらにはラット飼料や実験期間を吟味する必要のあることを示している。
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