研究概要 |
本研究は,有機フッ素(F)化合物の動態を検討する上でその基礎となる健常人での血漿中Fの存在割合をゲルろ過法を用いて検索する事を目的とした。また,有機F化合物(DF)とNaFを経口投与した場合の血漿および硬・軟組織中のF濃度を検討するために低F飼料条件下での動物実験(ラット)も行った。 1.市販ヒト血清による実験では,すでに報告している動物血清および血漿^<*)>と同様に市販ヒト血清中にionic F,non-ionic bound F,non-ionic low molecular F compoundの3種のFの存在を認め,ゲルろ過法を用いた方法はnon-ionic Fの中の蛋白結合型および低分子量有機F化合物のFの存在割合を検索する上で有効な手段と考えられた{non-ionic F(bound F+low molecular F compound)=total F-ionic F}。 2.健常な同一人より同時に採血分離した健常人の血清および血漿による実験では,血清の場合にはnon-ionic Fのほとんどがbound Fとなり,また血漿の場合にはbound Fがnon-ionic Fを超える値を示し矛盾する結果となった。これは市販ヒト血清中のtotal Fに比べ健常人のそれは約1/2量と低値であった事に加えて,ゲルろ過の際に流出液中のFが血漿成分に吸着した可能性が考えられた。従ってF含有量が比較的多い動物試料とは異なり,ごく低濃度のF値をもつ健常人のFの割合を検索するにはゲルろ過法は有効な手段とはならなかった。 3.投与実験において,DF投与では血漿中へのionic Fの増加が認められなかったがNaF投与では明らかな増加を認め,ionic Fの血漿中への移行に差があった。硬組織(大腿骨,切歯)中のionic Fも血漿と同様の傾向を示し,血漿中の微小なionic F量が硬組織中のF濃度の変動を反映する事が示唆された。 4.動物実験において血漿や組織中の微量のionic F濃度を研究するには,低F飼料による実験は有効であった。 ^<*)>古山公英,ほか:ゲルクロマトグラフィーによる血漿蛋白中フッ素の検索,口腔衛生会誌,40,456-457,1990.
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