研究概要 |
医薬品あるいは天然物の合成において,芳香環,特に複素芳香環に2種以上の炭素鎖を位置選択的に導入する方法の開発は重要なテーマの一つである.我々は,等モルのパラジウム塩存在下,芳香族ブロマイドのビニル化を行うと、ブロム基の置換した炭素原子以外の炭素にビニル基が置換することを見いだした.例えば、4-bromoindole(1)とethyl acrylate(2)との反応では、ethyl(4-bromoindole-3-yl)propenoate(3)が得られ、1とN-Boc-dehydroalanine methyl ester(4)との反応では、N-Boc-dehydrotryptophane methyl ester(5)がよい収率で得られた。同様な反応は、ブロモベンゼン誘導体でも起こった。これらの反応によって得られたブロモオレフィンは,さらにPd触媒によってブロム基のついた炭素原子上にビニル化(Heck反応)が可能であり,芳香環に2種の異なるアルキル基を位置選択的に導入できるため,有機合成上非常に価値がある.この反応の有用性を,光学活性麦角アルカロイド,Clavicipitic Acid(6)の全合成によって示すことができた.即ち、5の不斉還元によって光学活性4-bromotryptophan(7)に導き、次にHeck反応によって4-(1,1´-dimethyl-1´-hydroxy-2-propenyl-3-yl)tryptophan(8)とした。次に8のBoc基を脱保護すると閉環反応が同時に起こり,clvicipitic acid(6)へと導くことができた。4-ブロモインドール(1)からわずか6行程で、光学活性体としてはじめて6の全合成に成功した. 今回我々の開発した合成ルートは,tryptophan骨格を有するインドールアルカロイドのの合成に広く応用可能なものであり,また麦角アルカロイドの生合成ルートと類似しているために,生合成中間体が光学活性体として供給可能であり,生合成研究の発展にも大いに寄与するものと考えられる.
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