研究概要 |
マウスやラットを長期間、隔離飼育すると自発運動量の増大や攻撃行動など通常は認められない行動が発現する。動物の社会的隔離で誘発される行動変化の機序は不明である。本研究では隔離飼育したマウス間の攻撃行動を抗うつ薬desipramine(DMI)が増強することを観察した成績(Matsumoto et al.,Pharmacol.Biochem.Behav.,39,167,1991)を基に、隔離飼育誘発性の中枢ノルアドレナリン(NA)神経系の機能変化について行動薬理学的実験を中心に検討した。ddY系雄性マウスを6〜7週間、隔離飼育した後、2匹をケージに20分間入れて攻撃行動を観察した。攻撃行動はNA神経終末へのNA取り込みを選択的に抑制するmaprotilineや、imipramineと同程度のNA取り込み抑制効果を持つamitryptyline及び5-HT取り込み系を優先的に抑制するclomipramineで増強された。これらの抗うつ薬の効果はα2拮抗薬yohimbineで遮断されたが、α1拮抗薬prazosinは無効であった。これらの結果は抗うつ薬の攻撃行動促進にNA神経系α2受容体が関与することを示唆する。一方、β受容体遮断薬propranolol及びβ2受容体遮断薬ICI118,551は単独では攻撃行動に影響せずに、DMIの攻撃行動増強作用を用量依存的に抑制したが、β1受容体遮断薬metoprololは無効であった。更にβ2受容体作動薬clenbuterolも単独で攻撃行動を促進したことから、隔離飼育により発現する攻撃性に対しα2及びβ2受容体刺激が促進的に働くことが示唆された。一方、NA神経毒素DSP-4投与は隔離飼育マウスの攻撃行動には影響せずに、DMIの攻撃行動促進効果のみを消失させたことにより、中枢NA神経系は異常行動発現には関与せず、その行動を調節することが示唆された。
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