研究概要 |
モルヒネの反復投与によって,その抗侵害効果に対して耐性が形成されるのは,学習・記憶に基づく環境への適応と同じく,外部からの侵襲に対する生体の防御機構の発動と考えられる。学習・記憶と耐性の形成に共通の機構が存在することが考えられ研究を行なった。 低酸素環境への曝露,両側総頚動脈の結紮による脳虚血,スコポラミン投与および電撃痙攣ショックの負荷で誘発した4種の健忘モデルマウスにおいて,モルヒネの連日反復投与による鎮痛効果に対する耐性の形成が抑制される。 また,これらの健忘動物では脳内AVP含量が低下しており,そのモルヒネ耐性形成の抑制効果が,AVPの脳室内への投与によって消失することを明らかにした。 これらの成績は,既に報告したように,モルヒネが投与の時期によって学習・記憶の過程に抑制,促進の両方向の作用を示す事実と併せ,中枢高次機能がオピオイドの作用を修飾するとともに,一方,オピオイドが脳内AVPを介して中枢機能調節因子として作用する可能性を示唆するものである。
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