研究概要 |
膵島内でのグリセルアルデヒド(GA)の蓄積がインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)の発症あるいは進展に関与する可能性があると考えられるので,膵島中におけるGAの有無を調べるとともにその定量を行うことにした。まず,その定量に用いるべきトリオキナーゼ(GAをリン酸化する酵素)をブタ腎臓から完全に精製した。精製は,ポリエチレングリコール分画,陰イオン交換クロマトグラフィー,ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー,疎水的クロマトグラフィー,およびゲル濾過により行った。本酵素は同じサブユニット2つからなり,分子量は12.2万であった。D-グルセルアルデヒドに対するKmは11μMと小さく,最適pHは7.5であり,また比較的安定で,GAの定量に適した性質を有していた。ついで,本酵素を用いる膵島中GAの定量法を確立した。本法は,GAにトリオキナーゼとグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素を作用させてNADHを生じさせ,それを酵素的サイクリング法で増幅した後、生成したNADHの蛍光強度を測定するものである。単離ラット膵島を20mMグルコース含有メディウム中で1および5時間培養した際のGA量は,それぞれ約70および270fmol/膵島となり,膵島中には確かにGAが存在し,また高グルコース持続下ではGA量が著明に増加することがわかった。GAはグルコースに比べ,グリケーションや自動酸化による細胞障害作用がはるかに強いことを考え合わせると,この結果はGA蓄積が膵島B細胞障害を引き起こし,それがNIDDMの発症あるいは進展の原因となりうることを示唆する。
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